防音のプロに聞く!防音設備&施工の疑問点

その他

2021/12/22

音楽に携わるさまざまな方にインタビューを行う、音TOWNスペシャルインタビューVol.1
(有限会社 海風堂 / 代表取締役 田中浩雅氏)


すべての演奏家にとって、快適に演奏・練習出来る環境には欠かせない防音設備。しかし「楽器による違いは?」「どれくらいの予算が必要?」など、わからない事も多いのでは。

今回はそんな防音設備のプロとして、「Rhythm-Star(リズム・スター)」という独自ブランドで、オーダーメイドの防音室を設計施工している有限会社 海風堂の代表取締役 田中浩雅氏にインタビュー。
多摩美術大学ではグラフィックデザインを学び、中学時代にはギター、そして現在はサックスを趣味にするなど、音楽や芸術にも親しみをもつ田中社長に、防音に関する基本的な疑問から、若い世代へのヒントとなるメッセージまで、お話を聞かせていただきました。

バックパッカーから貿易業を目指し、防音のプロフェッショナルに!?

――現在の海風堂は、防音室の設計施工を得意とされていますが、まずは防音に関わるまでの田中社長のご経歴からお聞かせください。

海風堂は1999年に私が個人事業主として開業しましたが、実は若いころに海外でバックパッカーをしていた経験もあって、元々は東南アジアの家具を輸入して卸す、貿易業をやりたくて立ち上げたんです。
ただ、それには資金が必要で。前職では不動産管理会社の内装部門にいて、賃貸物件の修繕などを担当していたので、まずは本来やりたい貿易業への資金調達として、前職でのノウハウがあった内装工事業からスタートさせました。
ですから『海風堂』という屋号は、最初は貿易会社にした時に、貿易を行う会社にふさわしい社名として考えて名付けていたものなんですよ(笑)。

――そうなんですね! では内装業の中でも、防音室の設計施工を始められた理由とは?

内装業は、どんどん新しい業者が生まれる業界です。そこで他社には出来ない強みが必要だと考えていたころに、防音設備のトップシェアを誇るYAMAHA アビテックスの開発にも関わった方とのご縁があり、私も防音を学びたいと思いました。
内装業者は防音室の「施工」が出来ても、専門知識がないと「設計」という部分は出来ません。私はその方を師匠として会社にお越しいただき、5年ほどかけて、一から防音の知識を身に付けました。そうしてようやく、「防音室の設計施工」を事業内容にも掲げるようになったんです。

――そのころが海風堂にとっての、ターニングポイントになったんですね。

立ち上げから防音を中核事業にするまでには、経営が苦しい時期もありました。周囲に弱音をこぼす事もありましたが、そんな私に、弊社の担当税理士が「まずは他人に与える事から始めましょう」と声をかけてくれたんです。
そこで改めて自分の仕事を振り返ると、「うちにはまだ、社会に与えられるものがない」と気付かされました。そのころから、利益の追求だけではなく「事業を通して、社会貢献が出来る事はないか」とも考えるようになったんです。

――そうした想いも、5年の月日をかけてでも、防音の専門知識を身に付けようとする意欲にもつながったんですね。

そうですね。防音を学び、業界の事も知っていくうちに、中には勘でやっているような防音業者もいて、依頼主と裁判になっている事例も多くある、という実態も見えてきました。
防音とは、何をする事でどれくらいの効果があるのか、目で見てもわからない世界です。だからこそ正しい知識と、数字に基づいた確かな理論が必要とされているんです。

防音のプロとして自信を持つ、「Rhythm-Star」の強み

――こうして防音事業を始められ、新たに気付く事もありましたか?

私自身も演奏家の気持ちを理解したいと思い、7年ほど前からサックスを習い始めました。
私のサックスの先生は、当時は藝大に通っていた学生さんで、ある日「卒業後はプロになるか、院に進むか悩んでいる」と相談されました。その時に「プロになるなら、大学の寮は出なくてはならない。そうすると、練習場所がなくなってしまう」という話も聞いたんです。
私はカラオケボックスなどに通って練習すればいいのではと思っていましたが、プロになるようなトップレベルの子は、いつ何時でも練習出来る環境がないといけないそうです。
そこで考えてみると、音楽の学校を卒業後にも、音楽を続けていくために常時練習が出来る環境を必要としている子たちは、毎年必ず一定数います。そういった子たちに、住居と練習環境を一度に提供出来る防音付きの賃貸物件には、確実なニーズと市場価値があると気が付いたんです。

――確かに、若い演奏家の方も住めるような、防音付きの賃貸物件は多くはない印象です。

隣室から苦情が来るんじゃないかとビクビクしていたら、練習していても音楽の世界に入り込めないですよね。今はこれこそが、我々に出来る社会貢献として取り組まなければならない事業だと思い、物件をもつオーナーさんとも協力して精力を注いでいます。
実は、「Rhythm-Star(リズム・スター)」という自社ブランドのネーミングも、「安心してリズムにのってほしい。そしてあなたはこのリズムにのって、スターになってくださいね」という想いを込めて名付けたんです。

――そんな海風堂の「Rhythm-Star」では、オーダーメイドでの設計施工を行っていらっしゃいます。特に御社の強みとして、挙げられる点はありますか?

まず一つに、音響へのこだわりです。奏者によっての好みもありますが、楽器にはそれぞれ推奨される「吸音率」というものがあります。
たとえばグランドピアノは、音響の適したコンサートホールの中で聴くから、心地のよい旋律として耳に入ります。しかし銭湯の中で演奏したら、響きすぎて音楽ではなく、ただの騒音になってしまいますよね。こういった事態が起こらないように、「ピアノはこれくらいの吸音率で音を減衰させるときれいに聴こえる」と、ある程度の数値化がされているんですが、この数値は楽器によって細かく違うんです。
音響が良くない部屋では練習にならないですし、防音室としても欠陥品です。「部屋の中も楽器の一部」と考え、設計から完全オーダーメイドで手掛けている弊社では、吸音率などの音響面でも最適な提案が出来ます。

――確かに、防音室は外に漏れない事が第一だと思っていましたが、演奏家の方にとっては、部屋の中で自身の耳に聴こえる音こそが重要ですね。では、ほかには?

もう一つの強みは、コストパフォーマンスです。室外への音を完全に遮断出来れば一番良いのですが、それではどんどんコストが上がっていきますから、防音室の設計では「どこまでは漏れてもいいのか」を判断出来ないといけません。
「車が欲しい?」という要望だけで、ファミリーカーで十分なお客様に、高級外車を売りつけるような事はしてはいけないわけです。
やはりニーズとしては、出来るだけ安く作りたいという要望が多いですが、安くても効果がなくては意味がありません。予算の中で最適なもの提供するために、私たちはお客様にインタビューしながら、二人三脚で一緒に作っていくというスタイルをとっています。

「楽器による違いは?」「平均的な予算は?」気になる防音の疑問

――続いては防音に関する、基本的な疑問にお答えいただけたら。まずは楽器によって、必要とされる遮音のレベルも違うのでしょうか?

はい、楽器によって異なります。たとえばドラムセットは、高い音が出るシンバルや、バスドラの重低音にキックペダルの振動もありますから、大きな音が色々な周波数で出ます。そのためギターなどに比べると、防音室としては難易度が高い楽器になります。

――防音室の遮音性能を表す言葉として、よく「D」や「Dr」という単位が使われています。この単位についても、簡単に教えていただけますか?

騒音計など、音の大きさを表現する単位といえば「dB(デシベル)」ですが、遮音性能を表現する時に使われる「D」や「Dr」とは、“difference”のDに由来する、要は“差”を表す単位です。
以前は「D」と表記される事が多く、まだ現場では「D」が使われる事もありますが、今はJIS規格で「Dr」と定められています。

そして遮音性能を評価するための基準になるものに、「Dr曲線」というものがあります。
街中でカーステレオから漏れる音楽をイメージしてもらうと、重低音だけがドン、ドンと響いて聴こえたりしますよね。つまり音は、低い音は遮音しにくく、高い音は遮音しやすいという特徴をもっています。

そこで「Dr曲線」では、音階による遮音の違いをグラフ化して表しています。この曲線を基準にして、「Dr-〇」という遮音性能は評価されているんです。

――続いては率直に伺いますが、防音施工には平均的にどれくらいの予算が必要なのでしょうか?

まず最低ベースのお話をすると、弊社ではピアノ用の防音を50万円以内に収めた事もあります。これは公式サイト内のブログでも紹介していますが、この場合はマンション上階に住むオーナーさんのお宅で、下の入居者さんに伝わる振動を抑えるため、防音というより防振に特化する事で、低コストで問題を解決する事が出来ました。

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ただし、これはレアなケースで、一般的な6畳のお部屋を防音室に変えたい場合、平均すると空調設備なども含めて250万円ほどかかります。そこから建物の条件に応じたオプションが付き、300万円程度になる事が多いかなと思います。

――予算のほかには、防音施工をする事で、お部屋の内装が制限されてしまうのでは、という点も気になります。

内装デザインへの制限は、実はそこまで大きくありません。見た目は普通のお部屋のようにデザイン性をもたせながら、きちんと防音を施す事は可能です。
もちろん色々と吸音装置がつくので、普通のお部屋とは違ってくる部分もありますが、そういった吸音設備自体をデザインの一部として生かす、という事も出来るんです。

施工事例の記事リンク⇒

――では実際に防音業者を選ぶ際には、どのように選べばいいのでしょうか。プロの目線から、アドバイスをいただけますか?

お勧め出来ない業者の特徴は、いくつかあります。まずは、施工件数だけを強くアピールしているところ。いくら施工件数が多くても、それに対してのクレームが多ければ意味がありませんから、そこだけを強みとして挙げてくる業者はお勧めしません。
ほかには、遮音性能として一般的には必要ないほどの高水準を謳っているところや、「D」や「Dr」という単位を使わずに、「我が社の独自基準です」といって違う単位を付けているところも、どうかなとは思います。

――防音工事を依頼する際には、業者の方が基本的な事をかみ砕いて説明してくださると安心出来ますね。

そうですね。ですから弊社では、まずはお客様にも防音について、一緒に学んでいただく事から始めます。
もちろんダメな業者ばかりではないですし、依頼主の方が求めているスペックが、その業者で作れるものであればいいんです。つまりコストパフォーマンスという点で、ベストなパートナーを見つけてほしいなと思います。

演奏家だけではない! 防音をより身近に、生活を豊かにするものに

――先ほどは事業による社会貢献として、若い世代のためにも、演奏環境の整ったお部屋をより広く提供していきたいとお話しいただきました。最後に、ほかにも実現させていきたいアイディアがあればお聞かせください。

一般的に、鉄筋コンクリート造に比べて木造の物件では音が響きやすいですが、弊社には木造物件でも防音室を作れる技術があります。この技術を生かして、楽器の演奏まではしないけれど、日常的な生活音や、隣室の話し声が聞こえないぐらいの防音性能を持った賃貸アパートも作っていきたいと思うんです。
これが実現出来れば、建築コストは鉄筋コンクリート造と比較して木造の方が安いですから、賃料は抑えながらも、皆さんにとってもより良い住環境を提供出来るはずです。

――そういった遮音性能をもちながらも、手ごろな賃料の物件が広がってくれたら、賃貸物件に住む方にとっては嬉しい事ですね。

やはり音というのは生活に密接していて、木造アパートの退去理由に挙げられる事も多いです。住居で壁越しに聞こえる音というのは、自分のプライバシーエリアに勝手に侵入してきているものですから、人はとても不快に感じます。とはいえ、周りの音を気にするのも、自分が音を出さないように身を潜める生活もイヤですよね。
ですから一般的な建物でも、防音をより身近なものにしていければと思っています。


インタビューを終えて

さまざまな出会いや経験を経て、現在の防音事業に辿りついたという田中社長。だからこそ広い視野をもち、防音への確かな知識を生かして、演奏家に限らず、より多くの人の住環境を良くしていきたいと語られる姿が印象的でした。
インタビューでお話いただいた内容のほかにも、防音に関する基礎知識や、さまざまな施工事例も海風堂の公式サイトでは紹介されています。ぜひこちらもご覧ください。

■有限会社「海風堂」 公式サイト
https://rhythm-star.jp/